大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(ワ)2330号 判決

主文

一  被告社団法人日本労働者信用基金協会は、原告に対し、金一〇四万〇一九五円を支払え。

二  被告国は、原告に対し、原告が別紙物件目録記載(一)の建物について神戸地方法務局三原出張所平成元年九月一三日受付第五〇三二号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をするのと引換えに、金三七〇〇円を支払え。

三  被告南淡町は、原告に対し、金七〇万五九九〇円を支払え。

四  被告角谷亀太郎は、原告に対し、金一九七万一一一五円を支払え。

五  原告の各被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は被告らの負担とする。

七  この判決の第一、第三、第四項は仮に執行することができる。

理由

一  請求原因2の事実(本件競売及び各被告の配当金受領)は、いずれの当事者間にも争いがない。

同1の事実(本件建物の所有及び本件賃貸借契約関係)は、《証拠略》によつて、同3の事実(本件評価書及び本件報告書における本件賃貸借契約及び本件建物の評価額等の記載並びに原告の認識)は、《証拠略》によつて、同4の事実(本件賃貸借契約の解除)は、《証拠略》によつて認められる。

同5のうち、平成三年四月一五日の解除の意思表示の事実は訴訟記録上明らかである。

二  そこで、請求原因5のうち、民法五六八条一項、五六六条一項、二項の類推適用の可否について判断する。

1  建物の競売は必ずしもその敷地の賃借権等の使用権の存在を前提として行われるものではないから、建物の競売において常に敷地使用権の移転を伴うものとみることはできないし、また、競売は、債務者ないし担保提供者である所有者の意思に基づいて行われるものではないから、たとえ競落建物に敷地使用権が存在せず、その事実が予め競落人に告知されていなかつたとしても、債務者ないし所有者に敷地使用権の不存在の責任を負担させることはできない。

しかしながら、競売手続において建物に付随する権利として敷地使用権が評価され、これを考慮して最低競売価格が決定されていることが明白であり、右事実を前提として競落人が当該建物を競落した場合に、後日、右敷地使用権が存在していなかつたことが判明し、競落人の敷地使用権が否定されるに至つたときは、民法五六八条一項、五六六条一項、二項を類推適用して、債務者ないし所有者に敷地使用権の存在について担保責任を負担させ、競落人は債務者らに対して競売による契約を解除することができるものと解するのが相当である。

けだし、敷地使用権が実際に存在するときには、建物の競売に伴い従たる権利として競落人に移転し、それが地上権である場合には、建物の競落人は敷地の所有者に対し当然にこれを主張し得るわけであるし、敷地使用権が賃借権である場合でも、その移転につき敷地所有者の承諾を得なければならないものの、もし承諾が得られないときでも承諾に代わる許可の裁判(借地法九条ノ三)を求める途も保障されている。しかも、地上権はもとより賃借権であつても、建物の価格とは別個に、それ自体として相当の財産的価値を有する。したがつて、民事執行法においても、評価人が目的建物を評価するに当たつては、敷地利用権の有無、内容(賃借権である場合には目的、期間及び賃料等)を調査の上、その価格を考慮して目的建物の価格評価を行い、裁判所は右評価額を斟酌して最低競売価格を決定し、右評価の過程は評価書に記載され、公開される(民事執行規則三〇条一項七号、三一条二項)こととなつており、競落人はこれを重要な参考資料として入札価格を決定しているのが実情である。このような実情に鑑みると、建物の競売手続において建物に付随する権利として敷地利用権の存在が明示され、その価格が評価されて最低競売価格が決定されたことが明らかであり、これを前提にし競売が行われた場合において、後日その敷地利用権が不存在であつたとして競落人の敷地利用権が否定されるとすれば、競落人は敷地利用権価額相当の損害を被るとともに、敷地所有者の明渡請求によつて建物そのものも失うという不測の損害を被ることとなり、民法五六八条一項、五六六条一項、二項の明文により競落人が保護を受ける地役権が存在しなかつた場合に比べ競落人を保護する必要性において劣るところはないからである。

また、右の場合において、敷地利用権が競売時に消滅していることは、債務者には明らかであるにもかかわらず、競落人からの担保責任の追求が否定される場合には、債務者に本来与えられる敷地利用権の消滅した建物に対する対価以上の利益(競売代金による債務への充当)を与えてこれを不当に保護することとなる反面、競落人は前記のとおり敷地利用権を含めた評価額を上回る競売価額を実際に支払いながらその権利を取得できないこととなり、その結果は極めて不公平であり、かつ、合理性を欠くものと言わざるを得ない。

債権者においても、たとえ競売における契約が解除され、配当金を競落人に返還しなければならないとしても、本来、債務者の責任財産以上の債務の弁済を得ることはできないのであり、契約の解除によつても債権者の債権自体は残存し、債務者の責任財産も競売のなされる以前の状態に戻るわけであるから、競落人からの担保責任の追求によつて不当な不利益を受けるとまでは言えない。また、被告らは債権者として借地権の消滅による建物価格の下落を防止するために債務者に代わつて地代を支払うことができ、殊に差押債権者(本件では被告角谷)については執行裁判所の許可を得て代払いすることにより本件賃貸借契約が賃料未払により解除されることを防止し、右支払賃料は後日共益費として配当手続において優先弁済を受けられる(民事執行法五六条)立場にあつたことも考慮すべきである。

さらに、建物の競売において、裁判所の評価書に明示された敷地利用権が不存在であることの危険を常に競落人に負担させることとすると、敷地利用権付建物の競落価格を引き下げるばかりか、強いては、競売に対する信頼を低下せしめ、競売自体を困難とする結果となる。

以上のような観点から、冒頭判示のとおり解するのが相当である。

2  そこで、これを本件についてみるに、前記認定の事実、《証拠略》によると、本件評価書には、評価額が三六九万円であること、評価額決定の理由の5項には本件賃貸借契約の内容、8項には、まず本件土地の更地価格を査定した上で借地権価格をその五〇パーセントと評価(約八七万円)して建物価格(二七一万円)との合算額により借地権付建物価格を決定したことの記載があること、本件報告書には、本件土地の占有関係の調査報告結果として、本件賃貸借契約の内容及び「土地賃借権は建物所有を目的として設定されたもの」「したがつて本件建物を買受けた第三者は当然上記賃借権も承継するものと思料する。若し賃貸人において、同賃借権承継譲渡の承諾をしないときは買受けた第三者は裁判所に対し、借地法第九条の三の規定に基づき賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求めることができるものと思料する。」との記載があること、本件建物の物件明細書にも、本件賃貸借契約の存在が記載されていること、原告の取締役である金本が平成元年七月一七日に右書面に目を通したこと、原告の入札価格は三七二万一〇〇〇円であつたこと、右入札価格で売却許可決定がなされたこと、以上の事実が認められ、右事実によると、競売手続上、本件建物に付随する権利として借地権が評価されこれを考慮して最低競売価格が決定されていること、右事実を前提として競落人が当該建物を競落したことが明白である。

この点に関し、被告角谷は、本件競売記録には、本件建物の敷地に使用貸借部分(別紙物件目録記載(三)の土地、以下「本件使用貸借地」という。)があり、本件建物の所有権移転によつて使用借権は消滅する旨の記載があつたことをもつて、本件建物の敷地を全体としてみると賃借権が存在することが明白な場合とは言えないとし、結局民法五六六条二項の準用は許されない趣旨の主張をするが、後記認定のとおり、本件建物の床面積六四・六三平方メートルのうち三九・五七平方メートルが借地権部分であり、右部分の賃借権が解除されると原告が本件競売の目的を達成できなくなることは明らかである一方、本件使用貸借地の使用継続の可能性については、同地は増田の長女である宮本の所有であり(増田から贈与を受けた)、その形状は三角形であつて、かつ道路に接する部分がほとんどなく独立使用の困難な土地であることから、原告が宮本との話合いによつて継続利用できる可能性は相当高いものであり、かつ競落後宮本は原告に対し右土地を賃貸する意向を明らかにしていた(よつて、本件競売の目的を達することができた。)というような事情の下では民法五六八条一項、五六六条一項、二項を類推適用して、原告は増田に対して競売による契約を解除することができるものと解するのが相当である。

三  請求原因6(増田の無資力)について

《証拠略》によると、増田は昭和五八年五月ころに心筋梗塞で入院し(同年九月三〇日に心臓のバイパス手術を受け、現在も身体障害者一級)店を休業したことから、借入金が約一二〇〇万円となつてその返済も滞つていること、増田の所有不動産は、同人が居住している建物(兵庫県三原郡《番地略》所在、家屋番号壱九五番四)のみであり、その建物も競売に付せられており(評価額七七七万円)、しかも同建物も借地上の建物であつて賃貸人である東から明渡訴訟を提起されていること、増田の収入(月額)は、厚生年金が一〇万円、手内職による収入が同人の妻の分も含めて八万円の合計一八万円で、預金は二〇万円程度存在することが認められるが、右事実においては増田は無資力状態と評価することができる。

この点に関して、被告国は、本件使用貸借地が事実上増田の所有財産である旨を主張しているが、《証拠略》によれば、増田の長女である宮本は昭和四〇年一〇月一日に右土地を増田から贈与されたことが明らかであり、増田が右土地の固定資産税を一度支払つた事実から、被告国が主張するように登記のみを形式上宮本としたと即断することはできず、他に右土地が増田の所有であることを認めるに足りる証拠はない。

そして増田が無資力であると認められる以上、償還金額の多寡に関係なく競落人の債権者に対する配当金返還請求権は成立すると解せられるから、被告国のこの点に関する主張も理由がない。

四  抗弁1(賃借権の不存在についての原告の悪意及び重大な過失)について

1  原告が不動産の売買、管理を業とする株式会社であり、売買についての知識及び競売に参加した経験を有すること、本件競売にあたつて、原告が競売記録に目を通して本件建物に赴きながら、増田及び東のいずれにも会つていないこと、本件建物は本件土地と本件使用貸借地にまたがつて建築されており、本件報告書には、本件使用貸借地については、建物が他に売却され第三者がその所有権を取得した場合にはその使用権が消滅し買受人は当然に右土地を使用できなくなる旨の執行官の意見が記載され、原告も右記載を知つていたことは当事者間に争いがない。そして、右争いのない事実及び前記認定の事実と《証拠略》によれば次の事実が認められる。

原告は、不動産一般の仲介、賃貸、売買を業とする株式会社(従業員は六名)で、従来から不動産の取得方法の一つとして競売にも多数参加していた。本件と同じく借地権付建物の競落の経験も有し、それらの物件は他に転売ないし賃貸して収益をあげている。

本件建物については、原告の専務取締役であり不動産の調査担当者である金本が平成元年七月一七日に裁判所の競売記録に目を通した上で、翌一八日に現地調査に訪れた。右金本が閲覧した競売記録のうち、本件評価書(甲第三号証・平成元年三月三一日作成)には、本件建物が「一九五番四(本件土地)と一九五番八(本件使用賃借地)の二筆に跨がつて立地している。物件(1)(本件建物)の床面積のうち、三九・五七平方メートルは借地権に基づいて一九五番四地上に立地し、二五・〇六平方メートルは使用借権に基づいて一九五番八地上に立地している。」、「当該借地契約の概要は次の通りである。」として「貸主 東譲、借主 増田清繁、期間 大正一四年頃より、期間の定めなし。賃料 月額一〇〇〇〇円、一時金 なし」との記載があり、評価額の算出の過程として、まず本件土地の更地価格を査定した上で借地権価格をその五〇パーセント、使用借権価格をその一〇パーセントと評価(合計九八万円)し、建物価格(二七一万円)との合算額により借地権及び使用借権付建物価格三六九万円を決定した旨の記載がある。本件報告書(平成元年四月一三日提出)には、本件土地について、「占有権限は賃借権、契約日は昭和元年以前、期間の定めなし、土地所有者は東茂吉の相続人東譲、賃料は毎月一万円翌月分先払」との記載があり、執行官の意見として本件賃貸借契約は「建物所有を目的として設定されたもので賃借人の増田清繁は同地上に物件番号(1)(2)記載の建物(本件建物等)を建てて同土地を占有しているものである。したがつて本件建物を買受けた第三者は当然上記賃借権も承継するものと思料する。若し賃貸人において、同賃借権承継譲渡の承諾をしないときは買受けた第三者は裁判所に対し、借地法第九条の三の規定に基づき賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求めることができるものと思料する。」との記載があり、本件使用貸借地については、「占有権限は使用借権、契約日は昭和四〇年一〇月一日頃、期間の定めないし(建物所有目的)、土地所有者宮本直巳」との記載があり、執行官の意見として「上記使用借権は建物所有を目的として設定されたものである。使用借人増田清繁は、上記使用借権締結前の昭和五七年九月頃件外一九五番四の土地と件外一九五番八の土地両地に跨がつて物件番号(1)記載の建物(本件建物)を建て、その後引続き両地を占有しているものであるが、使用借権は一般に権利が移転すれば当然消滅するものと解されている。したがつて物件(1)記載の建物が売却され、第三者が、その所有権を取得した場合、上記土地使用借権は消滅し、同建物買受人は宮本直巳所有の件外一九五番八の土地を当然には使用できないものと思料する。」と記載されている。そして増田の陳述要旨として「私の娘が所有している有ノ木一九五番八の土地は、もともと私が所有していたもので、それを私が娘に贈与したものです。」との記載がある。平成元年七月一八日、金本は本件建物の現地調査に赴いたところ、本件建物は閉まつていたので、隣にある増田の自宅も訪ねたが、増田は不在であつた。そこで、近所に位置している東の自宅を訪ねたが、こちらも不在であつたため、結局金本はいずれにも会えないまま、本件建物の調査を終了し、後日改めて訪問ないし電話連絡も行つていない。金本の調査の主体は、本件建物の権利関係の確認に主眼を置いたものではなく、むしろ本件建物の現況を知ることに重点があつた。本件使用貸借地については、所有者である宮本と増田が親子関係にあることから話合いによる解決が可能と考え、宮本とは金本以外の原告従業員が電話による交渉を行い、本件競落後、宮本は原告に対し賃貸する意向を明らかにしている。

原告は本件建物を使用借権及び借地権付で取得するものと考え、前記評価書に基づく最低売却価格三六九万円を超える三七二万一〇〇〇円で入札を行い、平成元年九月四日本件建物を競落した。

原告は、右競落後、東から賃料不払いにより平成元年七月二七日に本件賃貸借契約は解除されたとして明渡事件を提起され、平成三年一月二九日に請求認容の一審判決が言い渡された。

2  右事実においては、原告が本件賃貸借契約の解除によつて本件土地の借地権が消滅していたことを知つていたとは認めることができず、他に原告の悪意を認め得る証拠はない。

さらに、右事実を総合すると、原告は不動産の売買等を業とする会社であつて多数の競落経験も持つており、競落にあたつては当該建物の敷地利用権について調査義務があると解されるが、本件競売記録には本件賃貸借契約が存在することが明示されており、同記録によると借地権付建物との評価で最低売却価格が決定されたことが明らかであり、その他本件賃貸借契約の存続に疑問が生ぜしめるような記載もなかつたのであるから、右記録の記載を信頼した原告が敷地利用権について本件競売記録の記載の真偽ないしは執行官の調査以降の状況の変化等を逐次調査しなかつたからといつて、原告に重大な過失があつたと言うことはできない。

なお、被告らは、本件建物敷地の全部が賃貸借の目的となつておらず、その一部(一九五番八)が使用貸借部分となつており、右使用貸借部分の随意解除により、建物全体が使用不能となることが明らかな場合には、当該建物の競落人は建物全体が使用不能となる危険を覚悟していたものと言うことができ、したがつて原告は本件建物の敷地使用権につき権利の瑕疵が存在することを知悉していたものと言うべきであるとか、本件建物の敷地利用権が一部使用借権という不安定なものであることをもつて原告を保護するのは適当でないと主張する。

確かに本件建物敷地使用権には賃借権部分と使用貸借権部分があつて、使用貸借権部分の権利性は脆弱であり、このこと自体は原告においても認識があつたものであるから、右使用貸借権の消滅を理由として原告は本件競売による契約の解除をすることのできないことは言うまでもない。しかし、前記三に認定のとおり、本件使用貸借地の所有者は本件建物の前所有者増田の長女の宮本であり、宮本は右土地を増田から贈与されたものであることが認められ、また《証拠略》によれば、本件使用貸借地は三角形の形状を示し、かつ道路に接する部分がほとんどなく、右土地部分を単独使用することは困難であることが認められ、これらの事実からも、宮本は右土地の継続使用について原告からの交渉に応じる可能性はもともと強かつたものと認められ、事実前記のとおり、宮本は競落した原告に対しこれを賃貸する意向を明らかにしており、原告がその継続使用を見込んだ態度を不適切なものと言うことはできない。したがつて、使用貸借権部分の権利性が脆弱であるとの一般論のみを根拠として、賃借権の消滅についても原告がこれを認識していたものと同様に評価すべきであるとか、あるいは原告を保護するに値しないとか、さらには原告において右賃借権が解除されることを認識しなかつたことについて重大な過失があると言うことはできない。

したがつて、結局、原告が本件土地の賃借権が不存在であることについて悪意又は善意につき重大な過失があるとは言えない。

五  抗弁2(除斥期間の満了)について

原告が明渡事件において平成元年七月二七日に東が増田に対して本件賃貸借契約の解除の意思表示をしたことを知つたことは、原告の自認するところであるが、明渡請求事件が提起されたからといつて、そのこと自体から当然に原告が本件賃貸借契約が有効に解除されたことを知つたものとは断じられず、特段の事情のない限り、これを認容する判決がなされて当該契約解除の存在を知つたものというのが相当であるところ、右特段の事情の主張、立証はなく、前記四の1認定の事実によると、東の原告に対する明渡事件の第一審判決が言い渡されたのは、平成三年一月二九日であるから、原告が本件賃貸借契約の終了を確知したのは、平成三年一月二九日と解するのが相当であり、原告は同年三月二九日に本訴を提起して増田に対して本件競売における売買契約の解除の意思表示をなした(訴状は同年四月二二日に増田に送達)ことは本件記録上明らかであるから、右事実によると、原告は本件賃貸借契約が有効に解除されたことを知つた後一年以内に増田に対して右解除の意思表示をしたものというのが相当であり、被告協会らの一年の除斥期間が経過したとの主張は理由がない。

六  抗弁3(同時履行の抗弁権)について

民法五七一条は、同五六六条の場合には同五三三条を準用すると規定していることから、債務者である増田が代金の返還債務を負担する際に、増田の返還債務と買受人である原告の本件建物の所有権移転登記抹消登記手続(ないしは増田に対する所有権移転登記手続)業務が同時履行の関係にあることは明らかである。そこで、同五六八条二項によつて債権者に対して直接代金の返還を請求する場合に、その債権者にも同時履行の抗弁権が認められるかが問題となるところ、同項は買受人の保護のために代金の返還請求の相手方について特則を設けたものと解されるが、この場合に買受人が債務者に対して請求するときと比べてより一層強固な保護を与えられるべき理由は存在せず、また配当金を返還した債権者は目的不動産の所有名義が債務者に戻された際、さらにこれを差し押さえ、再度競売に付する利益を有するものであるから、債権者は、買受人が本件建物の所有権移転登記手続義務を履行するまでは売買代金の返還を拒むことができると解するのが相当である。

よつて、被告国は原告が右抹消登記手続をするまで本件配当金の返還を拒絶することができる。

なお、被告らの配当金返還債務と原告の本件建物の所有権移転登記の抹消登記手続義務とは前示のように同時履行の関係にあると解されるから、被告らの返還債務は未だ遅滞に陥つていないこととなり、同債務に対する遅延損害金は発生しないと解せられる。したがつて、原告の被告らに対する遅延損害金の請求は理由がない。

七  以上によれば、本訴請求はいずれも主文記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条ただし書、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一六九条一項をそれぞれ適用し、仮執行宣言の申立てのうち被告国に対する部分及び訴訟費用の部分については金額が僅少であり、仮執行の宣言を付する必要は認め難いからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 熱田康明 裁判官 比嘉一美)

《当事者》

原告 株式会社コスモビルディング

右代表者代表取締役 伊藤大次郎

右訴訟代理人弁護士 三木俊博

被告 社団法人日本労働者信用基金協会

右代表者理事 斉藤敬一

右訴訟代理人弁護士 山本 博 同 荻原富保

被告 国

右代表者法務大臣 佐藤 恵

右指定代理人 塚本伊平 <ほか三名>

被告 南淡町

右代表者町長 江本 卓爾

右訴訟代理人弁護士 船越 孜

右訴訟復代理人弁護士 中村泰雄

被告 角谷亀太郎

右訴訟代理人弁護士 播磨政明

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例